vermilion::text 8階 観察者

それは、Vermilionを観察する男の話。
彼はすべてを見通す力を持っていた。人を観れば生まれから死まで見通せた。箱を観れば外側から中身まで見通せた。森を観れば端から落ち葉まで見通せた。
彼はVermilionの端に小屋を建てた。朱色のレンガで小屋を建てた。小屋にはのぞき窓をつけた。そこからは、Vermilionのすべてが見通せた。
彼はVermilionの記録を取り始めた。彼が見れば過去から未来まですべてを見通せる。彼が見れば外壁から階層の中まですべてを見通せる。彼が見れば塔全体から砂粒一つまですべてを見通せる。彼はVermilionのすべてを観た。そして観たものをそのまま書き写した。黙々と書き続けた。それは単調な作業だったが、彼は食事もとらず、水も取らず、寝ることもせずに描き続けた。
徐々に彼の動きは鈍くなった。そして、8階層を書き写しているとき、彼は動かなくなった。そこには、朱色の塔とそれを観察する男の物語が描かれていた。その男は塔と同じ色をした小屋の窓から塔のすべての記録をとっていた。観えるすべてを記録していた。彼の筆は、8番目の層を記録している男の姿で止まっていた。