わかったつもり 読解力が付かない本当の原因

ISBN:4334033229
文章を深く理解できない原因を、文章が「わからない」ではなく「わかったつもり」であるという観点から、読者にさまざまな例題を出すことで、実感させながら最終的には文章の読み方の指針を示す本だ。注意が必要なのは、最終的には文章の読み方の指針を示すだけであって、「10日で伸びる読書力*1」のような内容ではない。
この本は読者に「わかったつもり」を実感させるために、事例とその解説に紙面のほとんどを費やしている。言い換えると、「わかったつもり」のために文章が読めていないことを実感することはできるが、それを回避するための技術ははあまり身に付かない。
私がこの本を読んで感じたことは、この本は「読者のために書かれているのではない、作者のために書かれている」ということだ。この本は、「わかったつもり」を読書時の最も危なくかつ排除困難な問題とし、「わかったつもり」のために誤読が起こる原因が丁寧に書かれている。この原因を知ることで利益を得ることが出来るのは、文章を書く人間ではないだろうか。
世の中では文章を書くときには「分かりやすい文章」を書けという風潮がある*2。面白いことにこの本の例文はどれも分かりやすい文章である。ほとんどの例文は、小学校の教科書に載るような文章のため、大人が読めば一発で理解した「つもり」になれる。しかし、この本を読んでもらえば分かるように、そんな「分かりやすい文章」でも実際にはさらに深い読みが可能、もしくは誤読が多発している。
なぜそのようなことが起こるかについて丁寧に解説されているため、文章を書く人間がこの本に書かれている内容を「読者」ではなく「作者」という立場から読み込むことで、ただ分かりやすい文章だけではない、読者に深い理解を促す、誤読の発生を防ぐような文章を書くことが出来るようになるのではないだろうか。
逆に、「分かったつもり」の原因を逆手に利用することで、読者に「分かったつもり」にさせる文章を書くことができるのではないか。これは、必ずしも好ましいことではないが、文章の内容を読者に「分かったつもり」にさせるような文章構成の技術も、文章を書く者にとっては必要な場面が存在する。仕事をしているときに、相手に理解させることに労力を費やすより、相手に「分かったつもり」になってもらうことで、こちらの労力も低減し、しかも物事を有利な方向へと進ませるという場面は存在すると思う。たとえばプレゼンなんていうのが良い例だ。プレゼンを行う場合、大抵、例えば商品を買ってもらうことや意見を求めるなどの、相手に何らかの働きかけを行いたい場面が多い。そのような時、「分かったつもり」にさせる技術というのは有効に働くと思う。
このような視点から、この本は、読書力を高めるたい人というよりも、文章を書かなければならない人が一読する価値のある本だと思う。

*1:実在する本ではありません。例として適当に作ったタイトルです。

*2:このように書くと、私はこのことに反対しているように読めるけど、そんなことはない